今年もこの日がやってきた。
8月1日、積丹沖のクロマグロ解禁日。
春先から心の中でカウントダウンしてきたこの日を、釣り人はどれだけ待ちわびていることか。私も例外ではなく、前日の夜は寝つきが悪い。タックルチェックを何度も繰り返し、ルアーケースの中身を眺めては「これが正解か?」と自問自答。気がつけば夜中の2時。結局、眠ったのかどうかも分からないまま朝を迎えた。
3日間連続出船、朝5時の港の空気
8月1日から3日まで、3日間連続で出船した。
毎朝4時過ぎには港に着き、薄明るい空の下でエンジンの始動音が響く。港内に漂う軽い潮の香りと、静かに揺れる係留ロープのきしむ音。これが私の夏の始まりの音だ。
出船は毎日5時ジャスト。
「マグロは朝イチが勝負」と思う人も多いが、私の経験では、積丹沖の本番タイムは9時前後。もちろん早朝にもナブラは立つことがある。しかし、あまりにも早い時間帯は群れの動きが読みにくく、空振りに終わることも少なくない。
広範囲を探す航海、170Lの燃料が物語る
この3日間、魚影を求めて船を走らせ続けた。
3日間の合計燃料消費量は170リットル。数字だけ見ても、相当広範囲を駆け回ったことが分かるだろう。
GPS画面には、まるで子供が落書きしたような航跡が無数に刻まれていく。行っては戻り、また違う方向へ。潮目を探し、鳥山を探し、そして海面の「わずかな違和感」を目を凝らして探す──マグロキャスティングはほとんど宝探しに近い。
初日がナブラ最多──しかしその正体は…
3日間で最もナブラが多かったのは初日。
「よし、今日はあるぞ!」と気持ちが高まる。しかし、近づいてみればその多くはカツオサイズの小型。水面を飛び跳ねるその姿は可愛らしいほどだが、こちらの狙いは30kgオーバー。
実際に2〜3回だけ、明らかに大型と分かる群れを目視した。しかし、それも一瞬の出来事。船を寄せる前に沈んでしまう。
潮は動かず、海だけは絶景
潮回りは小潮、小潮、長潮──正直、潮の動きには期待できない組み合わせだった。
だが天候は申し分なかった。特に3日目は、驚くほどのベタ凪。水面はまるで鏡のように空を映し、ルアーが着水する「チャポン」という音が遠くまで響く。今年初めてエンジンをフルスロットルで回せたのもこの日だ。
こういう日には、「釣れなくてもいいか」と一瞬思ってしまうほど、海の美しさに心を奪われる。
唯一のバイトは初日──そして沈黙
忘れられない瞬間が初日に訪れた。
キャスト練習を兼ねてルアーを引いていたとき、突然、ドンッ!という衝撃が手元に走った。体が勝手に反応し、ロッドが弧を描く。
「来たか!」
心臓が跳ねる。が、その瞬間にテンションが抜け、ルアーが海面に浮かび上がった。バイトは一瞬の夢と消え、その後はまったくの沈黙。3日間、合計30時間以上海に浮かび続けたが、それが唯一のチャンスだった。
それでも海に出る理由
釣れない時間が続くと、「今日はもう帰ろうか」という考えが頭をよぎる。だが、海の上にいると不思議なもので、「次の潮目まで」「あの鳥山まで」と、つい延長してしまう。
気がつけば太陽は真上に。肌は焼け、腕時計の跡がくっきりと残る。汗と潮風でベタついた肌に、再び潮の香りが染み込んでいく。
お盆過ぎに来る大型への期待
今回の結果は、正直「まだ早かった」という一言に尽きる。
しかし、経験上、お盆を過ぎれば大型の群れが寄ってくる可能性は高い。水温やベイトの動きが整い始める時期だ。
次の勝負は9月──だがその時期は鮭漁の本格シーズンでもある。漁とマグロキャスティングの両立は体力的にも時間的にも厳しいが、それでもやらずにはいられない。
マグロは「釣れない時間」も魅力の一部
多くの人は釣果だけを見て、その日の良し悪しを判断する。
だがマグロキャスティングは、それだけでは語れない。
海の上で仲間と過ごす時間、突然現れる鳥山、海面を割って跳ねるマグロの姿──それらすべてが、この釣りの魅力だ。
そして「次こそは」という気持ちが、また次の出船を決意させる。