暗闇から始まる本気のキャスティングゲーム|ヒラマサは微笑むか?
未明の港、静かに始まる挑戦の航海
夜明け前の港。空はまだ漆黒のままで、街灯の下に集まる釣り人たちの影が、波のリズムに揺れていました。前回の記事「港に集結、まだ見ぬヒラマサを追って」では、港での集合から出港までの様子をお伝えしましたが、ここからはいよいよ本番。
キャビンに入り、エンジンの響きを子守唄代わりに仮眠をとります。約1時間半のうたた寝のあと、うっすらと明るくなった空が目に入りました。気温はひんやり、でも胸は熱く高鳴ります。
見渡せば、海はわずかにざわつき、風も悪くない。曇り空と1〜2mのうねり。自分のボートなら戻ることを考えるレベルですが、今日の我々は“大型船の強み”を生かして、そのまま出船。
この揺れる海が、今日という一日にどんな表情を見せてくれるのか。そう考えるだけで、心が引き締まっていきました。
ファーストキャスト、その静寂と緊張
「一流し目がすべてを決める」と、インストラクターの斉さんから事前に聞いていました。だからこそ、最初の一投には、ただならぬ思いを込めました。
肩慣らしを兼ねて、フルパワーではなく6割の力で投げた一投。ラインが空気を切り裂き、240mm・130g超のワイルドレスポンスが沖へと吸い込まれていきます。
使用タックルは以下のとおり:
- ロッド: オシアプラッガーリミテッド S88H
- リール: 25 ステラ SW 14000
- ライン: オシア17+ PE 8号
- リーダー: オシア ナイロンキャスティングリーダー 140lb
- ルアー: ワイルドレスポンス 240F
オシアプラッガーリミテッド S88Hは、ロングロッド特有のしなやかさがありつつ、240mmクラスのプラグを正確に飛ばせる反発力も兼ね備えています。キャスト後の静けさ、風と波、心臓の鼓動だけが聞こえてくるような、特別な時間でした。
一瞬のチェイス、そして沈黙の海
朝イチ、1度だけ魚がルアーを追う姿が見えました。チェイスの後、反転して消えていく影。惜しい…。でも、ここで釣れていたら、今日の物語は短く終わっていたかもしれません。
それ以降は完全な沈黙。潮が動かない。風も止まった。そして、何より船上の空気も、どこか重たく感じてきました。
それでも私はキャストを続けます。回数はすでに百回は超えているはず。途中、疲労で立っていられなくなる瞬間もありました。それでも諦めず、ヒラマサの気配を信じて、沖へ向かってルアーを投げ続けました。

昼の事件——斉さん、ヒット!
昼前、私はついにカップ麺で一息入れることにしました。船上で食べる熱いスープ。簡素だけど、これほど染み渡る味はありません。
その間、斉さんがキャストに入ります。私がずっと投げていたその場所で——「出た!」。一瞬のロッドの曲がり。斉さんが見事にヒラマサを掛け、軽やかにファイトを展開。ランディングまで数分。完璧な仕事でした。
「さすがプロだなぁ」——この言葉以外、何も出てこない。同じポイント、同じ潮、同じルアーでも、あの一投に必要な「何か」が決定的に違うのです。まさに“引き出す力”の差。真のアングラーの技術を目の前で見せられた瞬間でした。

午後の潮止まり、癒しの根魚タイム
その後、潮はさらに緩み、ヒラマサ狙いのキャストには厳しい時間帯に。気分転換にと投入したのが、タイラバ。これが意外に活躍してくれました。
ヒットしてくれたのは、カサゴやオオモンハタ。根魚特有の重量感ある引きに、思わず笑顔がこぼれます。サイズはそれほどでもありませんが、釣れることの喜びを思い出させてくれるひととき。釣りって、やっぱり楽しいんだなと、あらためて思います。

雨が時合を呼ぶ?2本目タックルで勝負へ
15時前、急に雨が強まってきました。視界が悪くなり、全員が合羽を着てキャストを続けます。そんな中、船長からのひと言。
「この雨、1時間で抜ける。抜けたら潮が動くぞ。チャンスが来る」
私は迷わず、2本目のタックルへと持ち替えました。
- ロッド: オシアプラッガーリミテッド S82XH
- リール: 25 ステラ SW 14000
- ルアー: ダイブフラット 240F
S82XHはS88Hに比べて短めで軽く、取り回しがとても良い。最大ドラグも16kgあり、PE10号にも対応。とにかく「戦えるロッド」だという印象です。後半の体力が落ちたタイミングでは、非常に頼もしい相棒になってくれました。
雨が止み、海は少し活気を取り戻したように見えましたが、残念ながらヒットは訪れず、無情にも納竿の時間となってしまいました。

500投超え。限界まで投げ続けた一日
この日、自分が投げた回数はおそらく500回以上。正確には数えていませんが、足はふらふら、腰も痛く、ふくらはぎは痙攣寸前。船上でのキャスティングというだけでも負荷が高いのに、240mmの大型プラグを全力で投げ続けるというのは想像以上に過酷でした。
マグロ釣りとは違い、ヒラマサキャスティングは「ひたすら投げる」釣り。集中力と体力の両方が問われる戦いだと、痛感した一日でした。
見島の夜は、学びと反省と、ちょっぴりの敗北感
その晩は、ポイントから近い見島に宿泊。旅館に到着してすぐ入浴し、芯まで冷えた身体を温めました。釣れなかった悔しさを湯気に溶かして、ようやく心もほぐれます。
夕食を囲んでの反省会。斉さんや船長からのアドバイスはどれも実践的で、潮の読み方、風と船の流し方、キャストの意図など、自分の釣りの浅さを思い知らされました。
隣に座った秋田からの女性アングラーは、なんと初日でヒラマサ2本とアコウをキャッチ。祝勝ムードに包まれる中、私は静かに反省しながら、明日への決意を新たにしていました。

終わりに|釣果ゼロの先に見えた「釣りの核心」
魚は釣れませんでした。しかし、得たものは数え切れないほどあります。
潮を読む力、魚との間合い、そして“釣りに向き合う姿勢”。釣れなかったからこそ気づけた大切なことが、この旅には詰まっていました。
明日は3時起床。「ひと流し目」がすべてを決める。今度こそ、ヒラマサの本気に応える一投を。