はじめに──トップに出る魚は、同じではない
日本のソルトゲームの中でも、「キャスティングで獲れるビッグフィッシュ」は、いつの時代も特別な存在です。
なかでも「クロマグロ」「ヒラマサ」、そして南方で人気の「キハダマグロ」「GT」は、その強烈な引きとダイナミックな水柱でアングラーを虜にし続けています。
これらの魚に共通するのは、トップに出てくること。ただし──その特性も、付き場も、釣り方もまったくの別物。それを知らずに挑むと、「似たような道具で全然通用しなかった」という苦い経験をすることになります。
「海域が違えば、魚の“動き方”もまるで違う」
魚の生態を語るうえで、どんな“海”に住んでいるかという視点は欠かせません。
クロマグロとキハダマグロ、この2種を比べたとき、私は海域の違いが彼らの“潜り方”や“泳ぎ方”に大きな差を生むと考えています。
私のホームである日本海、特に積丹沖では、おおよそ水深200mを超えると「底部冷水層(日本海固有水)」が存在し、急激に水温が低下します。場合によっては5℃前後まで落ち込むこともあり、魚にとっては「生命活動を一時停止させるレベルの寒さ」です。
クロマグロは、ある程度の耐寒性を持ち、多少の低水温域にも対応できますが、200m以深の冷水層に長時間留まることはできません。一瞬潜っても、自らの筋肉温度を保つためにすぐに浮上せざるを得ない。つまり、積丹のクロマグロは“浮いてくる魚”としての性質が極めて強いのです。
一方、キハダマグロが主に生息する黒潮海域や南方の外洋では、水深600mでも水温15℃をキープする層が存在します。この環境下では、キハダは深場まで自在に潜航できる。高水温帯を縦横無尽に移動できる構造があるからこそ、表層〜中層〜深層を行き来し、潮と共にベイトを追い続けられるのです。
この「縦のレンジの使い方の差」が、釣り方にも直結してきます。
種類 | 潜行限界(水温的) | 備考 |
---|---|---|
クロマグロ(日本海) | 200m程度まで(冷水層で制限) | 潜ってもすぐ浮上/表層滞留傾向 |
キハダマグロ(黒潮域) | 〜600mでも可 | 深場ベイト追尾・沈下系ルアー有効 |
積丹の海とクロマグロ、そして“まだ来ぬ魚”ヒラマサ
私のホームグラウンドは北海道・積丹半島。夏が近づくと、ナブラが立ち、クロマグロが回遊してくる。私たちアングラーにとって、この時期は年に一度の祭りのようなものです。
積丹にやってくるのは、基本的にクロマグロのみ。ヒラマサは本州や対馬海域ではポピュラーですが、積丹ではまだ「幻」の魚。接岸傾向は見えるものの、常駐するターゲットとしては未成熟です。
そんななか、2025年に私は本州遠征でヒラマサキャスティングを初体験しました。強烈な突進、根に向かって潜るファイト。クロマグロとの違いが、体を通して理解できた瞬間でした。
釣りに“座学”が欠かせない時代
今の釣りは、もはや「現場に行ってから覚える」時代ではありません。
YouTube、ブログ、そして学術論文まで──事前の座学によって効率的に釣果に近づける時代になりました。
私自身、釣行前には徹底して情報を集めます。潮、水温、魚の行動パターン…。だからこそ感じたのが、「トップに出るからといって、釣り方が同じとは限らない」という真実です。
たとえばクロマグロとヒラマサ。同じようなダイビングペンシルを使い、トップに誘い出す釣りでも、ルアーの動かし方・止める位置・間の取り方がまるで違います。
クロマグロ・ヒラマサ・キハダマグロ──魚としての“特性”を知る
まずは、3種のビッグターゲットの生態的な違いを整理してみましょう。
特性項目 | クロマグロ | ヒラマサ | キハダマグロ |
---|---|---|---|
分類 | サバ科マグロ属 | アジ科ブリ属 | サバ科マグロ属 |
主な海域 | 日本海沿岸〜太平洋 | 本州〜九州の根・瀬 | 外洋性・太平洋南部中心 |
好む水質 | やや濁りもOK | ストラクチャー付き・潮流重視 | クリアウォーター・青く澄んだ潮 |
回遊距離 | 広域・数千km単位 | 地域内を回遊 | 外洋・黒潮絡み |
群れの性質 | サイズごとに群れる | 混合群・2〜5尾で行動 | 数百単位の大規模群れもあり |
捕食行動 | 高速突進、視覚重視 | 波動・側線で感知し突っ込む | 視覚&波動、沈下系にも反応 |
着き場 | 沖合ナブラ・ベイト群れ下 | 瀬・潮流絡み・根回り | 外洋の潮目・浮き魚礁・流れ藻 |
クロマグロ釣りの核心:「静」と「演出」の勝負
クロマグロは、高速回遊魚でありながらも極めて繊細な魚。プレッシャーがかかると一瞬で沈み、スレた個体は見向きもしなくなります。しかし、彼らはある一定の条件がそろうと、一気に表層に浮き、あの「ドッカーン」を見せてくれる。
その条件とは:
- ベイトの密度
- 潮目と水温
- 騒音の少なさ(ボート音・着水音)
- ルアーのナチュラルな動きと“止め”
クロマグロは「リアルなベイト演出」に反応する魚です。
私はよく、「クロマグロは“目で喰う”魚」だと表現します。色、シルエット、アクション、止めの“間”──この全てが噛み合った瞬間に、海が割れるのです。
ヒラマサ釣りの核心:「瞬間」と「強さ」で喰わせる
一方でヒラマサは、波動で喰ってくる“反射系アタッカー”です。
目の前を横切るジグ、ダイビングペンシルのスライド、潮の流れに乗せたナチュラルアクション。それに“ピタッ”と食い上げてくる。
ただし、気まぐれ。見せすぎると見切るし、早すぎても追わない。だからこそ、「リズム」「緩急」「変則」が必要です。
また、ヒラマサのファイトは独特。根に突っ込む系ファイターなので、掛けてからが勝負。タックルが甘いとラインブレイク、もしくは根ズレで終了です。
キハダマグロ──“これから”学ぶ魚
私自身、キハダマグロはまだ釣ったことがありません。
だからこそ、いま様々な情報を集め、経験者の話を聞き、自分なりの引き出しを増やしている最中です。
学んだことの中で特に印象的なのは、
- 極端にクリアウォーターを好む
- 視覚が鋭く、ルアーやリーダーに敏感
- 表層から沈下系まで幅広く狙える
という点です。
クロマグロが「演出で喰わせる魚」なら、キハダは「情報処理能力が高く、見切りが早い魚」だと感じます。
実戦で感じた「違い」が釣果を分ける
クロマグロを狙うとき、私はとにかく音と波紋を考えています。
ドリームツアーで600投以上して経験した、その瞬間を今でも鮮明に覚えています。
- ロングキャスト
- 軽いワンアクション
- ピタッと止めたその“間”
海面が爆発するようなバイト。あの一撃の快感が、今も私を突き動かしているのです。
ヒラマサのときは違いました。
小型のスライドペンシルで瀬際に打ち込み、潮を噛ませて流し、少しスラッグを出したままテンションフォール気味に止める。その瞬間、ロッドがひったくられる。
同じ「トップに出る魚」。でも、喰わせ方はまったく違う。
釣りとは「違い」を楽しむ行為
私たちはつい、「同じ道具でなんとかしたい」と思ってしまいがちです。ですが、それぞれの魚に合わせて、道具・戦略・考え方を変えることこそ、釣りの面白さなのだと感じています。
クロマグロには「無音と演出」
ヒラマサには「変則と波動」
キハダには「クリアと精度」
この3つの釣りを、それぞれ違うものとして理解することで、より深く、より濃く、釣りの楽しさを味わえるようになると思うのです。
まとめ“トップで出る魚”は、それぞれにしかない物語を持っている
ビッグターゲットを狙う釣り。そこには技術や戦術以上に、「その魚を知る」ことが求められます。
海の中の魚たちは、見た目が似ていても、全然違う生き方をしている。
だからこそ、我々アングラーも“同じように見える”釣りをせずに、「違い」を受け入れて、「個性」に寄り添って釣る必要があるのだと思います。
2025年。ヒラマサというビッグターゲットに挑みました。8月にはクロマグロにチャレンジします。
そして次は、キハダマグロという“まだ見ぬ魚”に向き合う準備を始めています。
釣りは、学びの連続です。それが海に出るたびに、こんなにも心を揺さぶってくれる理由なのかもしれません。