シマノのスピニングリールの頂点に君臨する「ステラ」と「ステラSW」。その価格は、汎用モデルで約90,000円、ソルト向け最上位機であるステラSWでは約160,000円にも達します。中堅モデルであれば2台、エントリーモデルであれば5台以上が買えてしまう価格帯です。にもかかわらず、多くの釣り人が“いつかはステラ”(かつての“いつかはクラウン”のように)と憧れ、購入を夢見る特別なモデルとなっています。
このステラというリールは、単なる高級機という枠ではとても語りきれません。その存在は、釣具業界全体の構造やシマノという企業の哲学にまで深く関わっており、まさに「釣具界のファーストクラス」と言える位置づけを担っています。ここでは、航空業界のビジネスクラス・ファーストクラスとの比較を交えながら、ステラが持つ象徴的な価値や、なぜステラが必要とされ続けるのかを掘り下げていきます。
🎣 ステラは釣具界の“ファーストクラス”
釣具メーカーには、エントリーモデルからフラッグシップモデルまで幅広い製品ラインが存在します。シマノにおいては、以下のような区分が見られます:
区分 | 商品例 | 役割 |
---|---|---|
ファーストクラス | ステラSW、ステラ | 技術とブランドの象徴 |
ビジネスクラス | ツインパワー、ヴァンキッシュ | ハイアマチュア層向けの主力モデル |
エコノミークラス | ナスキー、セドナなど | 初心者の導入機・市場シェアの維持 |
ステラは単に「最も高いリール」ではありません。その存在自体がシマノの技術力の集大成であり、ブランドの象徴として機能しています。実際に購入するユーザーが限られていたとしても、ステラの存在によって他の中堅機やエントリーモデルの価値まで引き上げられているのです。これは、まさに高級車ブランドがそのトップモデルによって全体のブランドイメージを底上げしているのと同様の構造です。
✈ 航空業界の構図とよく似ている
ステラのような高価格帯のモデルがなぜ重要なのか、その答えは航空業界を例にすると非常に分かりやすくなります。航空会社においても、ファーストクラスやビジネスクラスは全体の座席数のうちごく一部に過ぎません。しかし、それらの高価格帯チケットの収益は、エコノミークラスの数十人分に相当します。
- ファーストクラスが数席売れるだけで、便全体の利益が確保できる
- エコノミーは赤字でも、ブランド価値と継続的な利用者確保のために必要な存在
釣具業界もまったく同じです。ステラが持つ高価格・高技術の価値は、その販売台数の少なさを超えて、企業のイメージと利益構造において極めて重要な位置を占めています。釣り業界においても「最上位モデルがある」という事実が、他の製品の価値を保証し、ひいては釣り人のブランド選択にも強い影響を与えています。
なぜステラは必要なのか?
🕰 「いつかはクラウン」という時代の象徴
1970年代末から1980年代にかけて、日本中で広く知られたキャッチコピーに「いつかはクラウン」があります。これは、トヨタ自動車が当時展開していたテレビCMなどで使用されたもので、サラリーマンにとっての“人生の成功像”や“憧れの到達点”を象徴する言葉として社会現象にもなりました。
当時のクラウンは高級車の代表格であり、購入できるのは一部の成功者だけ。しかし、その存在があるからこそ、多くの人が努力を重ね、目標を持ち、夢を描くことができたのです。
ステラにも、それと同じような空気感があります。“いつかはクラウン”が語られたあの時代のように、“いつかはステラ”と口にすることで、釣り人は自らの技術向上や知識探求のモチベーションを高めていきます。
ステラの存在理由は、単なる商業的な製品ラインの一部という枠を超えています。むしろ、“ブランド哲学”の体現者と言っても過言ではありません。
- ステラで最初に投入された技術(インフィニティドライブやXプロテクトなど)が、数年後には下位モデルにも搭載されることで、技術の水平展開と製品全体の底上げが可能になります。
- 「ステラがあるから、シマノを選ぶ」という信頼感。高性能なフラッグシップがあることで、中堅以下の製品にも“安心”が宿るのです。
- 初心者や若い釣り人にとって、“いつかはステラ”(かつての“いつかはクラウン”のように)という目標ができることで、長期的にブランドと顧客がつながるサイクルが形成されます。
こうした観点から見れば、ステラは単に「売るためのリール」ではなく、「存在させるべきリール」であることが分かります。
正直なところ…
確かに、価格だけを見ればステラは高額です。性能や仕様を冷静に見れば、同価格帯の中堅モデルを複数購入できることも事実です。しかし、ステラにはそれを超える“意味”があります。
手にした瞬間、回転させた瞬間、魚を掛けてファイトした瞬間に「違い」が分かる。 それは単なるスペックの差ではなく、ものづくりに込められた思想や哲学が伝わってくる感覚です。
車で例えるならば、トヨタの「センチュリー」やレクサスLSのような存在。必要な人は限られるが、その存在があることで企業全体の信頼が増す──それが、ステラの持つ力なのです。
まとめ
ステラは単なる高級リールではありません。 それは釣具の頂点として、シマノという企業が世界に誇るべきフラッグシップとして存在し続けるべき存在です。
価格に見合う性能はもちろんのこと、それ以上に、
- 釣り人にとっての「目標」
- シマノにとっての「信頼の象徴」
- 業界における「技術革新の導線」
としての役割が、ステラにはあります。
たとえ誰もが手に取れる道具ではなくとも、“ステラがある”という事実は、釣具業界そのものの価値を一段上へ引き上げているのです。