釣った魚をどう美味しく食べるかを探求することは、釣り人にとって最大の楽しみの一つです。しかし、いざ自宅で極上の干物を作ろうとすると、室内環境での作業には必ず限界が訪れます。
せっかく厳しい環境で釣り上げた最高の魚も、浴室に吊るしてサーキュレーターの風を当てるだけでは、乾燥にムラができたり、最悪の場合は生乾きの匂いが出て台無しになってしまうリスクが常に付き纏います。札幌のマンション時代、丸2日お風呂を我慢して銭湯に通い詰めた苦労は、いまとなっては良い思い出ですが、根本的な解決にはなっていませんでした。
この悩みを一掃し、魚のポテンシャルを極限まで引き出すための最適解が、遠心力で水気を飛ばしながら均等に風を当てる「回転魚干し機」の導入です。
市販品を購入すれば15万円前後という高額な投資になりますが、知恵と工夫、そして仲間との連携があれば、たった3万円の予算でプロ顔負けの最強マシンを生み出すことができます。
釣果を極上の味わいに変えるための「自作・回転魚干し機」の全貌とその制作プロセスについて、解説します 。
妥協を許さない動力源の選定
なぜ洗濯機モーターは不採用となったのか
回転魚干し機を自作する上で、最も重要となるのが長時間の連続稼働に耐えうる動力源の確保です。理由は単純で、オフショアで釣り上げるような大型の魚を複数同時に回し続けるには、生半可なモーターではすぐに焼き付いてしまうからです。
構想の初期段階では、不要になった洗濯機のモーターを流用する案など、色々な候補がテーブルに上がりました。しかし、洗濯機のモーターは確かに力はあるものの、屋外の環境下で、かつ低速でジワジワと数時間から十数時間も回し続けるような特殊な負荷を想定して作られてはいません。途中で回転が止まってしまえば、せっかくの魚がただの生ゴミに変わってしまう危険性があります。
ゴミだけであれば良いのですが、私の家の回りには多くの野生の動物たちがいます。家の近くで熊こそ見たことはありませんが、キツネ、アライグマ、テン、ハクビシンかも?、一番やっかいなカラスが多くいて、もし止まってしまったらカラスのバラダイスになります。
私はこのマシンの心臓部にも、予算内で買える強いスペックを求めました。
ソアラの大型ワイパーモーターがもたらす圧倒的なトルク
試行錯誤の末に私がたどり着いたのが、車のワイパー用モーターを流用するという選択です。その中でも、ヤフオクで3000円前後で出品されていたソアラの大型モーターをあえて採用しました。
小型車用のモーターでも動かすこと自体は可能だったかもしれません。しかし、私が相手にするのは積丹沖の良型の魚たちです。ギリギリのスペックで運用して余裕をなくすよりも、オーバースペック気味な剛性を持たせることで、長時間の稼働でも安定したトルクと回転が担保されるのではとかんがえました。
結果として、この選択は大当たりでした。変速も自由自在にコントロールでき、12Vのバッテリーからも100Vの家庭用電源からも稼働する、パワーユニットが完成したのです。スタンド部分には頑丈な照明用のスタンドを流用し、土台としての安定感も完璧に確保しています。
心臓部となるシャフトへの執着
既製品の組み合わせでは超えられない精度の壁
モーターが決定し、全体の構想が見えてきた中で、最大の壁として立ちはだかったのが動力を伝えるシャフトの制作です。ここを妥協すると、全ての苦労が水の泡になります。
モーターの回転をいかにロスなく、そしてブレなく吊るした魚に伝えるか。この精度が低いと、回転するたびに遠心力が不均等にかかり、干物の仕上がりに致命的なムラが生じてしまいます。ホームセンターに通い詰め、既製品の金属パイプやジョイントを組み合わせてみましたが、どうしても納得のいく真円の回転、つまりブレのない完璧な精度を出すことができません、かつ、魚の重量にも耐えなければならない。
シャフトは心臓部でへなちょこのシャフトでは駄目だと結論に至りました。
鉄工所40年の職人技が実現したブレのない回転
己のDIY技術の限界を悟った私は、ここで最高の助っ人に協力を仰ぐことにしました。鉄工所で40年間腕を振るってきた、大ベテランの釣り仲間です。
彼に構想を相談したところ快諾してくれ、使い終わった機械の廃材などを巧みに組み合わせながら、このモーター専用のオリジナルシャフトをワンオフで製作してくれました。結果的にこの特注部品の制作費(部品代だけ)手間賃はいらんけど、1万円はかかるよ。散々検討した結果なので快諾しました。
予算を完全にオーバーする最高級パーツとなってしまいましたが、組み上げて電源を入れた瞬間にその価値を確信しました。
異音ひとつなく、一切のブレを感じさせない完璧な回転。このシャフトがあるおかげで、私の理想としていた市販品を凌駕する滑らかな遠心力が生み出されたのです。その他の部品は3000円前後で収まり、総額約3万円でこの究極のマシンが形になりました。
【ここに画像を追加:鉄工所特注のシャフト部分とワイパーモーターの接続部】
積丹の自然環境を最大限に利用する
浴室の淀んだ空気と決別する日
機械が完成した絶好のタイミングで、オフショアのジギングにて立派なサイズのホッケを3匹釣り上げることができました。さっそくこの自作機に吊るし、初めての試し干しを実行に移します。
札幌のマンションに住んでいた頃は、浴室に魚を吊るしてサーキュレーターを回すしか方法がありませんでした。自分は風呂を我慢し、銭湯に通いながら作った干物も確かに美味しかったのですが、やはり室内という閉鎖空間では風の抜けに限界があります。
しかし、現在の田舎暮らしの環境は違います。車が4台入るほどの広い車庫や庭があり、機材を設置する場所には全く困りません。そして何より、漁港のすぐそばで風通しが良いです。
良いというか、抜けすぎます。日本海なので冬はよく8m以上の風が吹く日が続いたりします。うちの古民家、すごく風通しがいいんでよ(笑)。湿気対策ゼロです。窓を締め切っていても風が通るような素敵な家なんです。なので、8m以上になると家が揺れます(大笑)、地震かなと思うくらいなんです。特に北西の風は揺れが酷い、船酔いする人は家では泊まれません。
遠心力と本物の潮風が作り出す極上の生干し
自作機にセットされた3匹のホッケは、異音もブレも全くなく、非常に順調に宙を舞い続けました。24時間連続でモーターを回し続けましたが、ソアラの大型モーターは全く熱を持つこともなく、涼しい顔で回転を維持してくれました。
何より素晴らしいのは、積丹の冷たく適度な塩分を含んだ極上の本物の潮風を直接当てながら水分を飛ばせることです。遠心力で余分な水分を均等に弾き飛ばし、自然の海風が表面を優しくコーティングしていく。
24時間後、完成したホッケを口にした瞬間、これまでの苦労が全て報われました。乾燥しすぎず、かといって柔らかすぎず、身の中に旨味と上質な脂をしっかりと閉じ込めた、絶妙な塩梅の極上の生干しが完成したのです。
【ここに画像を追加:自作機に吊るされて勢いよく回転している3匹のホッケ】
釣果の先にあるアングラーの特権
システムの限界スペックを試す冬の陣に向けて
今回のテストでは、ホッケ3匹という負荷で完璧な動作を確認することができました。しかし、私の探求はここで終わりません。
今年の冬にはさらに負荷をかけ、6匹、7匹と同時に回した時にモーターやシャフトに違和感が出ないか、検証結果はOK!いまではホッケだけでなく、イカの一夜干しや、秋の肉厚な鮭を使ったトバ作りなど、様々な魚種での加工をしています。
現状のモデルにもまだまだ改良の余地は残されています。次回は魚を吊るすハンガー部分をダブルに拡張した2号機の制作も思考中です。
自らの手で獲り自らの手で生み出す喜び
このモーターと精密なシャフトの構造を応用すれば、市販品だと非常に高価な自動シャクリ機なども、魚干し機より安価に自作できそうです。私自身はルアーを主体とするためシャクリ機を使う釣りはしませんが、道具の仕組みを紐解き、自らの手でゼロから構築していくプロセス自体が非常に面白いのです。
厳しい自然を相手に知恵と技術を振り絞って魚を釣る。そして、釣り上げた命を最高の状態で味わうために、極限まで遊んでみる。これが楽しいのです。
海と向き合うアングラーだけが味わえる究極の贅沢であり、釣りの奥深い魅力そのものだと確信しています。今回は、予算3万円で市販品を凌駕する回転魚干し機を自作したプロセスをお伝えしました。
タックルのセッティングにこだわるように、魚を食べるための準備も釣り人の特権ですからね。釣りの楽しみは何倍にも広がります。皆さんもぜひ、釣った魚を最高に美味しく食べるための自分だけのこだわりを探求してみてください。

